おとなの男のフィットネス 〜男たちを太らせるストレスの真実〜


WHO(世界保健機関)は2014年、過体重の成人数(18歳以上)が19億人に達したとの調査結果を発表しました。肥満はそのうち6億人。

2016年の厚生省発表資料も、日本人男性における肥満者(BMI値25以上)の割合は全世代平均で3割、特に40代から60代では約35%が肥満であるという結果を示しています。3人に一人以上のおじさんが中年太りということです。

太っているのは、その人の管理能力の低いせいだと言われてしまうことが往々にしてあります。ですが、問題はそれほど単純ではありません。最近の研究では、中年太りを加速する原因となる行動へ走る時、つまりB級グルメを食べ過ぎたり、不規則な生活に陥ったりする時、ストレスが大いに一役買っているということがわかってきています。

歳を取るにつれてどんどん太ってきている?
ダイエット→リバウンドを繰り返してる?

その原因はストレスかもしれません。この記事では、ストレスによるホルモンバランスの乱れがどのようにあなたを太らせるのか、その影響の真実についてお伝えして行きます。

危機から生物を救う「ストレスホルモン」

ストレスがカラダと心に及ぼす影響を語る時に欠かせないのが「コルチゾール」というホルモン。コルチゾールは「ストレスホルモン」とも呼ばれていて、自然界でのサバイバルには欠かせない物質です。

人間も含め動物は、身に迫った恐怖に反応して、「闘争・逃走モード」を発動します。この時カラダが「闘争」または「逃走」に全力を発揮できるよう分泌されるのが、アドレナリンと「コルチゾール」。

コルチゾールの働き(一部)

・代謝を上げて脂肪やグリコーゲンなどエネルギーを放出
・炭水化物から摂取したグルコースを血液を通して筋肉に送る
・筋肉以外の血管収縮
・消化機能の阻害・停止

敵が現れたら、逃げるにしても戦うにしても、ベストを尽くさなければ自然界では生きていくことができません。そこで、危機を最良のパフォーマンスで切り抜けられるよう、コルチゾールがカラダの働きを筋肉優先モードに切り替えるのです。

さて、自然界の危険は遥か彼方に去った現代、なぜこのホルモンが本稿の問題となるのか。それは、コルチゾールが、肉体的な危険による恐怖感だけでなく、精神的なストレスによっても分泌されてしまうものだからです。

さらに、24時間休みなく精神的ストレスに晒され得る現代人は、自然界の動物よりもずっと厄介な環境に置かれているということが言えます。

仕事でもプライベートでも、ストレスを感じている人は常にコルチゾール分泌量が高めの状態。上に挙げたコルチゾールの働きを見れば、それがカラダに悪そうなことぐらいは誰にでも想像がつきます。

さあ、前置きが長くなってしまいましたが、ストレスホルモンの働きがわかったところで、ストレスに晒されていると、どうしてデブってしまうのか、どうして痩せられないのか、早速探って行きましょう。

ストレスの真実1:快眠を妨げる

コルチゾールのレベルが高い、それはカラダの中で警報が鳴り響いている状態。危険な環境下で適切に反応できるよう臨戦態勢がキープされます。そんな状態でぐっすり眠れるワケがありません。

健康な状態なら、コルチゾールは朝最も分泌され、夜にかけてだんだん低下して行くもの。眠るころにはコルチゾールが最も低いレベルになっているのが正常です。しかし、日中何らかの要因でストレスレベルが上がってしまうと、熟睡するために十分低いレベルまで下がらないまま、夜を迎えてしまうことになります。

その結果、カラダはフラフラなのに、気分は興奮状態でなかなか寝付けず、寝たと思っても何度も起きてしまったりという睡眠障害に陥ることも。

寝不足になると、食欲中枢を刺激するホルモン「グレリン」の分泌が増加し、満腹中枢を刺激するホルモン「レプチン」の分泌が減少します。食欲が増し、同時に満腹感を感じづらくなると……どうなるか、自明ですね。

ストレスの真実2:ドカ食い・ヤケ食いを煽る

まず、仕事や人付き合いなどのスケジュールに毎日振り回されている限り、食生活を改善したり、運動習慣を身に付けたりすることはとても困難です。ライフスタイルを改めようと思っても、ストレスを感じる環境下では、長い間深く馴染んだB級ライフで自分を甘やかしてしまいがちになります。

常にコルチゾール分泌量が高めの人は、低めの人に比べて多くカロリー摂取する傾向があることを示す調査結果もあります。ストレスを感じると、砂糖と小麦粉を多く含む食品に手が伸びてしまう、という経験は誰しも覚えのあるものでしょう。

その原因のひとつとして、コルチゾールの分泌が増えると、幸せホルモンと言われる脳内物質「セロトニン」の分泌が減少してしまうことが挙げられます。幸せホルモンが不足した結果できた心のスキマを、砂糖と炭水化物で埋めようというワケです。

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ストレスの真実3:消化・吸収を阻害する

ストレスは胃腸に悪い。今どき誰もが知っていることです。

過敏性腸症候群に分類される便秘や下痢、逆流性胃炎、それだけでなく、特定の食品を食べるとお腹がゴロゴロ、張り、痛みなどの症状が出る食物不耐症など、常日頃からこれらの症状に悩まされていませんか?

このような症状が進むと腸での炎症がひどくなり、腸で排除されるはずの菌・ウィルスが血液中に滲み出る「リーキー・ガット(腸管壁浸漏)」になってしまうことも。こうなると菌やウィルスが血管を通りカラダ中に運ばれ、行き着いた先で炎症を起こし、カラダにジワジワとダメージを与えるという恐ろしい事態に。カラダの老化を早める原因にもなります。

「それ、確かに怖いけど、太ることと関係なくない?」と思いますか? 胃腸が悪くなったら痩せそうな気がしますか? 残念ながら、必ずしもそうなるとは限りません。逆にデブることだってありますよ。人体はそんなにシンプルではないのです。

まず、消化器官に問題があると、食物繊維豊富な自然食品を食生活に取り入れることが難しくなります。野菜やきのこ類、玄米をはじめとした全粒穀物などは、ダイエットには欠かせない食品です。

さらに吸収不良になると、足りない栄養素を得ようとする脳の働きにより、食欲が増進されてしまいます。

加えて、コルチゾールは、満腹中枢を刺激するレプチンが発するシグナルを妨害するため、ストレス過多になると食欲をコントロールすることが難しくなることもわかっています。

その上、一時的・恒常的に関わらず、ストレスを受けると食欲中枢を刺激するホルモン「グレリン」の分泌も増加するとか。

ここまで来ると、ストレスが人体に与える影響の奥深さに打たれる思いすらします。ストレスに襲われたカラダは、もはや逃れられない何重もの罠にかけられたも同然です。

ストレスの真実4:運動できないカラダにする

太り気味、生活習慣病も心配。そうしたら軽い運動に取り組みましょう、というのは素人でも思いつくことですが、ストレスはここでもあなたの前向きな気持ちを阻むべく、手ぐすね引いて待ち構えているのです。

日常的にストレスを強く感じる生活をしていると、カラダが炎症を起こすことはすでに触れましたが、これは結果として免疫力の低下にも繋がります。その結果以下のような不調が現れることに。

・スタミナ不足
・疲れが抜けない
・体調不良になりやすい
・関節痛や筋肉のこり

これではフィットネスなんてとてもとても始められたものではありません。

「あーなんだか最近疲れやすいし、いつも肩が凝って……年かな?」

そうかもしれません。でも、単に年を取ったということだけでなく、これまでの人生を、ストレスの影響を甘く見て過ごしてきたことが、現在の不調に拍車をかけていることは確か。

デブはデブのまま、が嫌なら、ストレス要因を見直して、運動習慣を身に付けられるコンディションに持っていく努力が欠かせません。「年だから」「自分はダメ」と思い込む必要はないのです。

ストレスの真実5:頑張りたいあなたの足を引っ張る

考えがまとまらなかったり、人の話をきちんと理解できなかったり、書類に目を通しても何が書いてあるのかわからなかったり、こんな経験ありませんか?

すでに説明した通り、ストレスホルモンであるコルチゾールは、筋肉優先でカラダが働くよう仕向ける働きがあります。

コルチゾールの役割:炭水化物から摂取したグルコースを血液に流して筋肉に送る

ストレス高→ 筋肉に優先的にグルコースが送られる → 脳に十分なエネルギーが行き渡らなくなる

ストレスに晒され続けると、仕事の効率が悪くなるだけでなく、感情的になったり、物事に取り組む意欲が低下します。

さらに、脳の記憶を司る部位が損傷し、新しい記憶の定着を阻害することが、最近のいくつもの研究でわかっています。

このような状態では、新しい健康的な習慣付けをするのはほぼ不可能。食生活を改善して、アクティブなライフスタイルを実践し、中年太りから逃れるにはまず、ストレスをできる限り排除する必要がありそうです。

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米国のある調査によると、医師にかかる件数のうち75〜90%が、直接・間接に関わらずストレスが原因の症状によるものだとか。現代人がいかにストレスに蝕まれているか、わかるというものです。

仕事の重圧と戦い続けてきた頑張り世代のおじさんたちは、ストレスを気力で乗り越えてきてしまったかもしれません。無視してしまうことを精神的な強さだと信じてきたかもしれません。

しかし、乗り越えたと思ったストレスは、今確実にあなたを太らせています。年を取っても健康でスリムなかっこいいおじさんでいたいなら、そして何よりも生活習慣病にならないためにも、ストレスの存在を認めて上手に解消、「おとなの対応」をお願いしたいところです。